トチノミ(栃の実)とは?
「トチノミ(栃の実)」は、トチノキ科トチノキ属の落葉広葉樹「トチノキ」の種子のことです。(学名:Aesculus turbinata Blume)
トチノキ(栃の木)は日本原産の樹木で、北海道南西部から九州や四国の冷温帯に分布します。トチノミは、「縄文時代の遺跡」からも頻繁に出土することで知られる木の実で、まさに「日本のナッツ」と言える存在です。
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トチノミ(栃の実)の食べ方
トチノミの食べ方としては、「栃餅(とちもち)」が有名です。ほかにも「トチノミ茶」や、様々な「製菓原料」として利用され、食べられています。
これらのトチノミの加工品については、ページの後半で紹介しています。
トチノミは、外観は「栗」に非常に良く似ていますが、苦み・渋みを持つ「サポニン」や「タンニン」を多く含むため、単に煮たり焼いたりしただけで直接食べることはできず、「灰汁抜き(アク抜き)」が必要になります。
トチノミ(栃の実)のアク抜き
トチノミのサポニンは不溶性(非水溶性)のため、ひとくちに「アク抜き」と言っても、どんぐり等のアク抜きと比べて非常に煩雑な工程が必要になります。
単に水に漬けておくだけ、という訳にはいかないわけですね。
アク抜きの方法には地域差もあるようですが、伝統的なアク抜き方法を、雑誌論文の一節より引用させていだだきます。
【中国山地におけるトチノミの基本的な加工系列】
中国山地東部地域:虫殺し→天日乾燥→貯蔵→軽量→ふくらまし→皮むき→水さらし→調整→加熱・加灰処理→アク抜き確認→灰落し→蒸す→搗く
出典:辻稜三(1993). 中国山地におけるトチノミ食とその地域差について,人文地理,45,62-75
中国山地西部地域:虫殺し→天日乾燥→貯蔵→ふくらまし→皮むき→ひび入れ→灰汁採取→加灰処理→水さらし→灰汁採取→加灰処理→アク抜き確認→蒸す→搗く
「虫殺し」は実に生みつけられた幼虫を殺す工程で、水に一晩から数日浸します。
カラカラになるまで「天日乾燥」するのに数週間から1ヶ月以上を要し、さらに「水さらし」は川などの流水に1週間ほど晒しアクを流す工程です。
また、剥くのが果皮でなく種皮であることから「皮剥き」も容易ではなく、栃の実専用の皮剥き器があるほどです。
現在は機械化されている工程はあるものの、いずれにしても家庭でおこなうのは困難で、技術も根気も時間も要すことが分かるかと思います。
「アク抜きそのものを体験したい」という場合は別として、あくまで「食べること」が目的であれば、「アク抜き済みのもの」を購入するのが良いかもしれません。
ナッツの食物アレルギーについて
日本では、クルミ・アーモンド・カシューナッツがアレルギー物質に指定されていますが、栃の実は指定されていません(2020年時点)。
ですが、ナッツアレルギーには交差反応があると言われています。
つまり、ある種類のナッツでアレルギー反応が認められる場合、他のナッツ類でもアレルギー反応が起きるリスクがあるということです。
木の実ではありませんが、「落花生(ピーナッツ)」もナッツ類と交差反応性を持つことが報告されています。
米国やEUにおいては、アレルギー物質として個々のナッツを指定するのではなく、「ツリーナッツ」や「ナッツ類」といった分類で「包括的に指定」しているほどです。
ナッツアレルギーは、少量の摂取でも重篤な症状を発する場合があることでも知られています。
アレルギー患者の方、特に他のナッツにアレルギーを持つ方が初めて栃の実を食べようとする場合には、事前に医師の診断を仰ぐことを強く推奨いたします。
トチノミ(栃の実)の購入方法
トチノミを買える時期は?
栃の実は9月の上旬から下旬にかけて 結実・落下するため、9月末頃から販売が開始され、在庫限りで販売終了、というケースが多いようです(アク抜き無しの殻付き栃の実の場合)。
アク抜き処理を済ませたトチノミの新物は、10月~11月頃より出回ります。
トチノミはどこで買える?注意点は?
トチノミは、専門店のほか、大手ネット通販サイトでも販売されています。
注意点としては、単に値段や量だけを見るのではなく、「殻が剥いてあるか」、「アク抜きが済んでいるか」をよく確認し、目的に応じて購入するようにしましょう。
例として、以下のものはアク抜きしていない殻付き栃の実です。
以下は殻剥き・アク抜きされた栃の実です。
トチノミ(栃の実)を使ったお菓子や加工品
次は、トチノミ単体ではなく、トチノミを使った加工品を紹介します。
栃餅(とちもち)
「栃餅(とちもち)」は、アク抜きした栃の実をもち米と一緒に蒸してから、ついて餅にした伝統食です。
かつては穀物があまり穫れない山村で重要な食糧として、現在では山間部を主とした日本各地で土産物としても知られています。
また、「アク抜き栃の実」には、「栃餅の作り方レシピ」が付いているものがあります。
自作したい方にはこちらがオススメです。
栃の実茶
「栃の実茶」は、栃の実を乾燥させて作るお茶です。
自作するのは大変ですので、まずは市販されている栃の実茶で雰囲気を感じてみるのが良いかもしれません。
寿製菓株式会社さんが出されている栃の実茶は「小豆とのブレンド茶」ですが、そのぶん香ばしく飲みやすくなっており、煮出しタイプものと、カートカン(紙製の缶)タイプのものが販売されています。
とちの実せんべい
「とちの実せんべい」は、栃の実を生地に練り込んだ煎餅で、主に岐阜県の下呂温泉のお土産として知られています。
生産拠点は、同じ岐阜県の「飛騨高山」に集中しています。下で紹介している煎餅のメーカーも飛騨高山のお菓子屋さんです。
原材料名:小麦粉、砂糖、大豆粉末、とちの実粉末、鶏卵/ベーキングパウダー
※最新の原材料については、販売ページや実物の表示をご確認ください。
原材料名:小麦粉、砂糖、鶏卵、栃の実、食塩、植物油/膨張剤、カラメル色素
※最新の原材料については、販売ページや実物の表示をご確認ください。
とちの実まんじゅう
「とちの実まんじゅう」は、山形県鶴岡市の「有限会社大福城」さんが販売されているお饅頭です。
鶴岡市を含む「庄内地方」は、古くから栃の実を食す風習が根付いている土地で、栃の実の有数の産地として知られています。
このお饅頭は、「生地」にも「中身の白餡」にも「とちの実」の粉末が練り込まれている、まさに「とちの実づくし」の濃厚で贅沢なお饅頭です。
皮の色は着色料ではなく、「とちの実」を沢山加えたことで色付いています。
その他の栃の実を使ったお菓子
上で紹介した以外にも、栃の実を使った「クッキー」や「かりんとう」などが販売されています。
トチノミ(蒸し)の栄養成分
熱量・栄養成分 種実類/とち/蒸し | 数値 (100g当たり) | 単位 |
---|---|---|
エネルギー | 161 | kcal |
たんぱく質 | 1.7 | g |
脂質 | 1.9 | g |
コレステロール | ‘(0) | mg |
炭水化物 | 34.2 | g |
-糖質 | 27.6 | g |
-食物繊維 | 6.6 | g |
食塩相当量 | 0.6 | g |
水分・栄養成分(ミネラル) 種実類/とち/蒸し | 数値 (100g当たり) | 単位 |
---|---|---|
水分 | 58 | g |
カリウム | 1900 | mg |
カルシウム | 180 | mg |
マグネシウム | 17 | mg |
リン | 27 | mg |
鉄 | 0.4 | mg |
亜鉛 | 0.5 | mg |
銅 | 0.44 | mg |
マンガン | 1.46 | mg |
一般的な他のナッツと比べると、カロリーや炭水化物など全ての数値が低く見るかもしれませんが、これは「蒸し」状態のデータで水分が多く含まれており(58%)、100gなど単位当たりで見た場合に低くなるためです。
キュウリのような水分の多い野菜の栄養価が低く見えるのと同じです。
※参考までに、日本食品標準成分表2015年版(7訂)に収録されている「アーモンド/乾」の水分は4.7%、「ピスタチオ/いり、味付け」の水分は2.2%です。
樹木のトチノキ(栃の木)について
トチノキ(栃の木)は、大きなもので直径2メートル、樹高30メートルにも達する落葉広葉樹です。
北海道南西部から九州や四国の冷温帯に分布します。
地域の降水量や積雪量の多さは関係しませんが、水分条件が良好(湿潤)で肥沃な土壌の斜面下部から谷底面にかけての立地を主な生育地としています。
木の実が食用にされるのはもちろん、花からは良質の蜂蜜が採れ、木材としても有用です。
小学校教科書にも採用されている「モチモチの木」で、主人公の豆太が「モチモチの⽊」と名付け恐れた木こそがトチノキだったりします。
また、トチノキ(栃の木)は、その名の通り「栃木県の県木」にも指定されています。
また、近縁種のセイヨウトチノキ (Aesculus hippocastanum)は、フランス語で「マロニエ(marronnier)」と呼ばれ、パリの街路樹としても知られています。
【参考文献】
・辻稜三(1993). 中国山地におけるトチノミ食とその地域差について,人文地理,45,62-75
・日本食品標準成分表2015年版(7訂)
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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