賞味期限の年月表示とは|よくある誤解について

全3回の連載記事です。

大手の加工食品メーカーを中心に、賞味期限の「年月表示」への切り替えが進んでいるのをご存じでしょうか。

賞味期限の年月表示化は、「月表示化」、あるいは「月まとめ化」や「大括り化」と呼ばれることもあります。

2019年10月には食品ロス削減推進法が施行され、毎年10月が食品ロス削減月間として定められました。
食品ロスの削減への貢献が見込まれる「賞味期限の年月表示化」には一層の期待が寄せられており、農林水産省は10月30日を「全国一斉商慣習見直しの日」として定め、「賞味期限の年月表示化」を含めた商慣習見直しに取組む事業者を公表しています。

このように「賞味期限の年月表示化」は、食品業界が官民一体となって取り組んでいる状況にあります。

本稿では、まずは賞味期限の基礎知識から解説したうえで、「賞味期限そのものについての誤解」、「年月表示に関する誤解」や「メリット・デメリット」について、メーカーの人間の一人として見解を述べたいと思います。

なお、個人的な意見を多く含んだ文章となっていますので、はじめに筆者の立場を明確にしておきます。

  • メーカー側の人間で、中小、大手いずれの勤務経験もあります。
  • 一部の商品の年月表示化への切り替えを経験しています。
  • 年月表示化には、基本的には賛成の立場です。
  • ただし、昨今の「年月表示が絶対的に正しい」ことを前提にしているかのような紹介の仕方には反対の立場です。
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期限表示の基礎知識

食品の期限表示には、「消費期限」と「賞味期限」があり、これらは意味が異なります。

消費期限・品質が急速に劣化しやすい食品に対して設定される
・安全性を欠くこととなるおそれがない期限
・期限が過ぎたら食べない方が良い
賞味期限・比較的品質が劣化しにくい食品に対して設定される
・おいしく食べることができる期限
・必ずしも期限が過ぎたら食べられないという訳ではない

お弁当やおにぎり、サンドイッチ等のラベルには、「消費期限」と書かれていることが多いので見てみてください。

消費期限や賞味期限は、「食品表示基準」により、基本的に「年月日」で表示します。

「年月表示」が認められているのは賞味期限のみ、かつ、「製造(または加工)の日から賞味期限までの期間が3ヶ月を超える場合」に限られています。

消費期限や、製造日から3ヶ月以内の賞味期限を設定している商品については、年月表示は認められていません。

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よくある誤解①:期限を過ぎたら食べられない?

前述のとおり、賞味期限はおいしく食べることができる期限ですので、必ずしも期限が過ぎたら食べられなくなる訳ではありません。

これについては、食品ロス問題と絡め、行政の各省庁も啓蒙活動を行っています。

例として、消費者庁は、食品ロス削減のための広報・啓発活動の一環として、「賞味期限」の正しい理解を促進する観点から【「賞味期限」の愛称・通称コンテスト】を実施しました。

このコンテストの入賞作品(2020年10月30日発表)が、賞味期限の意味を理解するのに参考になります。

<内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)賞>
「おいしいめやす」

<消費者庁長官賞>
「たべごろ目安・のみごろ目安」

出典:「「賞味期限」の愛称・通称コンテスト」及び「私の食品ロス削減スローガン&フォトコンテスト」結果|消費者庁

このように、賞味期限はあくまでも「めやす」と捉えるべきものだと言えます。

ただし、消費期限や賞味期限は、未開封の状態で保存方法どおりに保存した場合の期限です。

一度開封したものについては、賞味期限に関わらず、早めに食べるようにしてください。

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よくある誤解②:当月は期限切れ?

例えば、「賞味期限:2020年12月」という商品があった場合。

「12月10日」の時点で、その商品は賞味期限内でしょうか、賞味期限が過ぎた後でしょうか。

「賞味期限:2020年12月」

この表示は、「賞味期限:2020年12月31日」と同じ意味です。

よって、当月は賞味期限内です。

また、上の例では賞味期限の当日(2020年12月31日)も賞味期限内です。

よくある誤解③:全商品の賞味期限が年月表示に?

冒頭で述べたとおり、賞味期限が3ヶ月を超える商品のみ年月表示が認められていますので、賞味期限が3ヶ月以内の商品については、引き続き年月日で表示されます。

また、賞味期限が3ヶ月を超える商品についても、「年月表示が認められている」という権利であって、「年月表示にしなければならない」という義務ではありませんので、全ての商品が年月表示に切り替わる訳ではありません

将来的にどうなるかは分かりませんが、仮に義務化されるとしても相応の移行措置期間が設けられるはずです。

よくある誤解④:年月表示化で賞味期限が延びる?

「年月表示に変えれば賞味期限を延ばせる

このような理由で、年月表示のメリットが語られることがあります。

ただ、これは完全な誤解で、年月表示によって賞味期限はむしろ縮みます

「製造日から150日間」という賞味期限を設定している商品を例にとります。

これを2020年8月20日に製造した場合。

賞味期限設定:「製造日から150日間」 & 2020年8月20日に製造
  • 年月日表示の場合の賞味期限は「2021年1月16日」です。
  • 年月表示の場合の賞味期限は「2020年12月」(2020年12月31日を意味する)になります。

もともとが「製造日から150日まで」のエビデンスをとっている商品なのですから、製造日から165日になってしまう「賞味期限:2021年1月」(2020年1月31日を意味する)は不適当ですよね。

ちなみに、製造日が2020年9月4日だった場合はどうでしょうか。

賞味期限設定:「製造日から150日間」 & 2020年9月4日に製造
  • 年月日表示の場合の賞味期限は「2021年1月31日」です。
  • 年月表示の場合の賞味期限は「2021年1月」になります。(2020年1月31日を意味する)

このようなケースでは、年月日表示の場合と年月表示の場合で日付が一致し、賞味期限は変わりません。

これらをまとめると、次のようになります。

  • 年月日表示の場合の賞味期限が月末最終日にあたる製品ロットでは、年月表示にしても期限は変わらないが、
  • 年月日表示の場合の賞味期限が月末最終日の前日にあたる製品ロットでは、年月表示にすると期限が最大30日間短くなる。

年月表示に変えると、賞味期限は短縮されることが分かりました。

では、なぜ「年月表示に変えれば賞味期限を延ばせる」という真逆の誤解が一部で広がっているのでしょうか。

それには、「賞味期限の年月表示化」と並行して推進されている取り組みが関係しています。

年月表示化は、後述しますが、食品ロス削減(および物流コスト等削減)のための取り組みです。それなのに賞味期限が短くなってしまっては、食品ロスがむしろ増える恐れがあり、本末転倒です。

農林水産省は「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム(事務局:公益財団法人 流通経済研究所)」を設置し、以下の取り組みを一体的に取り組むことを推進しています。

  • 賞味期限の年月表示化
  • 賞味期限の延長
  • 納品期限(いわゆる1/3ルール等)緩和

当然ですが、「賞味期限の延長」には、従来より長い保存試験を実施したり、酸化を防ぐ「脱酸素剤(※)」を新たに封入したりして、科学的なエビデンスをとることが求められます。

※脱酸素剤は食品添加物ではなく、よくパッケージの中に入っている、主に正方形のシート状の形をしたものです。エージレス等が有名です。「”食べられません”と書かれたアレ」と言ったほうが分かりやすいでしょうか。

前述したとおり、賞味期限を年月表示にすると最大30日間期限が短くなります。
したがって、従来の商品より賞味期限を30日間以上延長するエビデンスをとることができれば、年月表示にしても賞味期限が短縮されることはなくなるわけです。


さて、「年月表示に変えれば賞味期限を延ばせる?」という誤解の話に戻します。

この誤解は、本来別々の取り組みであるはずの「賞味期限の年月表示化」と「賞味期限の延長」の都合の良い部分だけが切り取られ、「一緒くた」にされてしまったことが原因だと考えられます。

一般消費者だけではなく、食品業界関係者の中にも誤解している人が少なからずいます。

もちろん、関係省庁やメーカー側の伝え方の問題もありますので、誤解した人を一方的に責めるような意図はありません。

ただ、ひどい場合だと、正しい情報を伝えるべきメディアが、取材不足なのか意図的なのかは分かりませんが、「官民が手を組んで賞味期限を延ばしている、食の安全は大丈夫か」といった内容の煽り記事を書くケースもありました。(私が以前見た記事は既に消えていますが)

少なくとも、根拠もなく賞味期限を延ばすことを推進するような取り組みではありません。

ましてや、「消費者を騙して賞味期限切れのものを買わせる」ための取り組みなどでは、あろうはずがありません。


全3回の連載記事です。

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