狭義のナッツ
まず、はじめに「栗」の話をします。
「栗」はナッツだと思いますか?
それともナッツではない何かでしょうか?
栗は、下図のような「堅果」と呼ばれる作りの果実を形成します。

鬼皮と呼ばれる堅い部分が、じつは他のフルーツで言う「果肉」に当たり、一般に食べている部分は「種子」に当たるわけですね。
栗は、もしかすると一般的な「ナッツ」のイメージからは離れているかもしれません。
ですが、植物学上の分類の話をすると、むしろ栗のような「堅果」のみが狭義のナッツということになります。
言い換えると、植物学上は、英語の「nut」に対応するのは、日本語では「堅果」ということになります。
この「堅果」に該当するものは、栗のほか、シイの実などのドングリやヘーゼルナッツ等です。
食品としてのナッツ
狭義には堅果のみがナッツに該当するとはいっても、一般的には、植物学上の定義にとらわれず、アーモンド・カシューナッツ・ピスタチオなどの「人が食用とする木の実(樹木の種子)」全般をナッツと呼ぶことが多いと思います。
英語圏においても、「nut」はそのような意味でも使われています。
ナッツ(木の実)は「種実類」の中に含まれるものです。
カロリーや栄養成分に関するデータベースである「日本食品標準成分表」において、「種実類」として収録される条件に、「穀類あるいは豆類以外の種子及びその製品」という記述があります(ただし、落花生は豆類ですが、唯一例外的に種実類に分類されています)。
つまり、植物の種子のなかでも、イネ科(禾穀類)やマメ科(菽穀類)の種子は「種実類」に分類されていません。
「ひまわりの種」や「かぼちゃの種」といった野菜の種については、「種実類」には該当します。ですが、木の実ではないため、ナッツとして扱わないのが妥当かと思います。
また、樹木の実であっても、種子ではない果肉の部分については、ナッツとしては扱われません。果物(フルーツ)は、果実類とされます。
したがって「○○の実」と呼ばれるものであっても、「ヒシの実」のような水草の種子や、「クコの実」のように果肉部分を食べるものなど、ナッツとして扱われないものもあります。
これらを総合すると、繰り返しですが「ナッツ=人が食用とする木の実(樹木の種子)」というのが、一般的なイメージや実態に近い定義かと考えられます。
なお、食用とされる木の実についてと、それに似た食品のそれぞれについて、その種類を一覧形式としたページがありますので、よろしければご覧ください。
関連ページ:ナッツの種類一覧【木の実】
関連ページ:ナッツに似た食品一覧|厳密にはナッツではないものは?
ナッツは「堅果、核果、種子」に分類される?
ネット上で、ナッツを「堅果、核果、種子」の3パターンに分類する記述を散見します。
検索すると、本当によく目にします。
冒頭の繰り返しになりますが、「堅果」は、一般的なフルーツの「果肉」にあたる部分が堅い皮のようになっていて、かつそれが裂開しない果実のことです。果肉は堅くて食べられませんが、ヘーゼルナッツや栗など、中にある種子の部分を食用とするものがあります。
「核果」は、果肉の内側に厚く堅い内果皮(核)を持つ果実です。梅や桃のように果肉を食用にしたり、アーモンドのように核の中にある種子を食用にしたりします。
ただ、果実の作りが堅果であっても核果であっても、ナッツとして食べられている場所は、「種子」にあたる部分です。
ですので「堅果、核果、種子」と並べる分類方法の意図が分かりかねます。
「A、B、アルファベット」と、階層の異なるものを並べたような違和感があります。
(「堅果、核果、その他」であればまだなんとか分かるのですが。)
いずれにしても、「堅果」や「核果(モモ等)」、「液果(ブドウ等)」などは、果実を「果皮(果肉)と種子」に分けて考えた場合の、「果皮」のほうの分類ですので、ナッツを分類する際の基準として適当か疑問です。さらに言うと、銀杏や松の実に至っては果実を持たない裸子植物の種子です。
あえてナッツを分類するのであれば、狭義のナッツである「堅果(nut)」と「それ以外」で十分ではないでしょうか。
ちなみに、「堅果、核果、種子」という分類の出所を調べてみました。
まず、Wikipediaの「種実類」のページに次のような記述があります(2021年2月6日時点)。
種実類は、堅果、核果、種子の3つに大きく分けられる。堅果は外側が非常に硬くなっているものの果実に属し[1]、(以下略)
https://ja.wikipedia.org/wiki/種実類
脚注[1]が、「堅果は外側が非常に硬くなっているものの果実に属し」のみを指すのか、「種実類は、堅果、核果、種子の3つに大きく分けられる。」の部分まで含むのかは分かりませんが、この出典元とされているのが次の書籍およびページです。
”「食品学」(栄養科学ファウンデーションシリーズ5)p84 和泉秀彦・三宅義明・舘和彦編著 朝倉書店 2014年4月1日初版第1刷”
気になったので、実際にこの本を入手し、該当のページを見てみました。
まず、該当のページは、種実類ではなく果実類の章のページです。
「核果類」は、「もも」や「うめ」などが属しますが、これは「液果類」や「仁果類」らとともに「果実の分類の一例」として記述されていました。
また、「堅果類」は、「この果実類の章ではなく、種実類の章のほうに記述していますよ」という意味で取り上げられていました。
以上を踏まえると、wikipediaの「種実類は、堅果、核果、種子の3つに大きく分けられる」という記述は、ページ編集者の個人的な見解だと思われます。
もしくは、『食品学』にて「果実類の分類の例示」として記述されている「核果」を、ページ編集者が「種実類の分類」に置き換えるなどしたものかもしれません。
Wikipediaは良くも悪くも影響力があります。
そして、最近はいかにもなキュレーションサイトは減ってきてはいるものの、実質的にキュレーションサイトと変わらないメディアでは、特に引用元の記載もなくWikipedia等からの転載で記事を書いているんだと思います。
まとめると、ナッツに関して「堅果、核果、種子」という分類が広まった経緯は、次のような流れではないかと考えています。
- ①wikipedia編集者が「堅果、核果、種子」を「種実類の分類」として記載
- ②キュレーション系の大手サイトがWikipediaからの転載でナッツ記事を作成
- ③個人サイトやブログ等、ネット全体に拡散
今回のテーマ(ナッツの定義)自体に関しては、いわば苺やメロンが野菜か果物かのような話です。統一的な基準も無いですし、そう目くじらを立てるようなものでもありません(記事の作り方の問題についてはともかく)。雑学の一つとして認識していただければと思います。
ここまで読んでいただいて有難うございました。