「ピリナッツ(pili nuts)」は、「ピリ(pili)」という熱帯性の高木の木の実で、東南アジア、特にフィリピンに重点的に分布しています。(学名:canarium ovatum Engl.)
名前のイメージから勘違いされる方が少なくないのですが、なにかしらのナッツを「ピリ辛」に味付けした製品の商品名ではありません。また、ピリナッツ自体にも辛さはありません。
「ピリナッツ」そのものがナッツの種類の一つです。
関連ページ:ナッツ(木の実)の種類一覧
一粒が大きく楕円形のナッツで、アーモンドやカシューナッツ等と異なり、ローストしても「カリッ」とした食感にはならず、とろけるような食感が特徴です。
まるでバターのように舌触りが良く、上品な甘みを感じられます。
日本で流通しているものは品質面でややバラツキがある印象ですが、美味しいものは本当に美味しいですよ。
なお、「ピーナッツ(落花生)」に字面が似ていますが、特に関係はありません。
ピリナッツの産地と生産量
東南アジアのなかでも、商業ベースでピリナッツが生産され加工されているのは「フィリピンのみ」です。日本国内に少量流通しているものもフィリピン産です。
ピリナッツ生産量と州ごとのシェア(2019年)
ピリナッツは、フィリピンのなかでも全域で穫れるわけではなく、ピリの木は特定の地方に集中して分布しています。

上のグラフのように、ピリナッツは6割以上がソルソゴン州で生産されています。
生産量1位のソルソゴン州、2位アルバイ州、3位の南カマリネス州の3州あわせて、ピリナッツ生産量の約85%を生産しています。
州 | 生産量 | シェア |
---|---|---|
ソルソゴン州(Sorsogon) | 4,531 (t) | 63.3% |
アルバイ州(Albay) | 1,160 (t) | 16.2% |
南カマリネス州(Camarines Sur) | 372 (t) | 5.2% |
その他の州 | 1,095 (t) | 15.3% |
計 | 7,158 (t) | 100.0% |
これらの3州はいずれも、首都マニラのあるルソン島の南東に位置する「ビコル半島」を構成する州です。ピリナッツは、ビコル地方の特産物であり、非常に限られた地域でのみ生産されている稀少価値の高いナッツと言えます。

ピリナッツ生産量の年次推移

近年のピリナッツの生産量は、ほぼ横ばいから、やや減少傾向にあります。
年次 | 生産量 | 結果樹面積 | 産出額(※) |
---|---|---|---|
2013年 | 8,243 (t) | 2,293 (ha) | 2.70億フィリピン・ペソ(≒5.80億円) |
2014年 | 7,316 (t) | 2,285 (ha) | 2.70億フィリピン・ペソ(≒5.80億円) |
2015年 | 7,362 (t) | 2,288 (ha) | 2.87億フィリピン・ペソ(≒6.17億円) |
2016年 | 7,291 (t) | 2,281 (ha) | 3.22億フィリピン・ペソ(≒6.92億円) |
2017年 | 7,427 (t) | 2,283 (ha) | 3.24億フィリピン・ペソ(≒6.97億円) |
2018年 | 7,649 (t) | 2,262 (ha) | 3.89億フィリピン・ペソ(≒8.37億円) |
2019年 | 7,158 (t) | 2,164 (ha) | 3.86億フィリピン・ペソ(≒8.29億円) |
※「1フィリピン・ペソ=2.15日本円」で換算
ピリナッツの生産量や結果樹面積(※)はやや減少傾向にあるものの、産出額は増加しており、ピリナッツの取引価格が上昇していることが分かります。
※結果樹面積:実をつける樹木の面積。畑における作付面積の用語に相当するもの。
ピリナッツの規格や品質について
ピリナッツの品質やサイズなどの規格に関しては、フィリピン製品規格局にて国家標準規格が定められています(2005年)。
カーネルのサイズ規格
ピリナッツのカーネル(仁:つまり食用の部分です)のサイズ(重要別)は、次のように規格化されています。
クラス | カーネル重量 | 1kg当たりの 推定カーネル数 |
---|---|---|
エクストラクラス | 3.5gを超える | 285(XL) |
クラス1 | 2.6g~3.4g | 290-380(L) |
クラス2 | 2.0g~3.5g | 400-520(M) |
クラス3 | 2.0g未満 | 520(S) |
カーネルの特性の分類
ピリナッツのカーネルは、次のように分類されます。
カーネルの分類 | 重量 | 形状 | 色 |
---|---|---|---|
レイサ | 2.57g | 楕円形 | クリーミーホワイト |
マグナエ | 3.35g | 長方形 | クリーミーホワイト |
M. オロルフォ | 2.69g | 長方形 | クリーミーホワイト |
ラヌサ | 2.57g | 長方形から楕円形 | クリーミーホワイト |
マガヨン | 3.4g | 長方形 | クリーミーホワイト |
ピリの木の植物としての特徴
ピリの木は、平均樹高が20mにもなる常緑樹です。
幹や枝は樹脂質で、対称性の高い樹形をしており、強風への耐性も強い特徴があります。熱帯性の樹木で、肥沃で水はけのよい土壌と、温暖で降雨の多い気候を好みます。低温には弱く、わずかな霜や低温にも耐えることができません。
ピリナッツの栄養成分(参考値)
栄養成分(100g当たり) | 数値 | 単位 |
---|---|---|
エネルギー | 700 | kcal |
たんぱく質 | 10 | g |
脂質 | 80 | g |
-飽和脂肪酸 | 30 | g |
-トランス脂肪酸 | 0 | g |
コレステロール | 0 | mg |
炭水化物 | 3.33 | g |
-糖質 | 0.03 | g |
-糖類 | 0 | g |
食物繊維 | 3.3 | g |
食塩相当量 | 1.19 | mg |
亜鉛 | 3.33 | mg |
カリウム | 497 | mg |
カルシウム | 143 | mg |
鉄 | 3.33 | mg |
銅 | 1 | mg |
マグネシウム | 297 | mg |
マンガン | 2 | mg |
リン | 563 | mg |
ビタミンB1 | 1 | mg |
ナイアシン | 3.33 | mg |
ビタミンD | 0 | IU(0.025µg) ※国際表示単位 |
※データの対象食品が生の発芽ピリナッツのため、日本で流通する素焼きピリナッツとは数値が異なる可能性があります。
当該データの対象となっている食品が生の発芽ピリナッツのため参考値にはなりますが、100g当たり80gと、ピリナッツはほとんどが脂質で構成されており、脂質80gのうち飽和脂肪酸は30gとなっています。
また、日本の「食品表示基準」に照らすと次のことが言えます。
栄養強調表示 | ピリナッツ参考値 (100g当たり) | 表示基準値 (100g当たり) |
---|---|---|
コレステロールを含まない | 0mg | 5mg未満 |
糖類を含まない | 0g | 0.5g未満 |
亜鉛を豊富に含む | 3.33mg | 2.64mg以上 |
鉄を豊富に含む | 3.33mg | 2.04mg以上 |
銅を豊富に含む | 1mg | 0.27mg以上 |
マグネシウムを豊富に含む | 297mg | 96mg以上 |
ビタミンB1を豊富に含む | 1mg | 0.36mg以上 |
たんぱく質を含む | 10g | 8.1g以上 |
食物繊維を含む | 3.3g | 3.0g以上 |
カリウムを含む | 497mg | 420mg以上 |
カルシウムを含む | 143mg | 102mg以上 |
ナイアシンを含む | 3.33mg | 1.95mg以上 |
ナッツの食物アレルギーについて
日本では、クルミ・アーモンド・カシューナッツがアレルギー物質に指定されていますが、ピリナッツは指定されていません(2020年時点)。
ですが、ナッツアレルギーには交差反応があると言われています。
つまり、ある種類のナッツでアレルギー反応が認められる場合、他のナッツ類でもアレルギー反応が起きるリスクがあるということです。
木の実ではありませんが、「落花生(ピーナッツ)」もナッツ類と交差反応性を持つことが報告されています。
米国やEUにおいては、アレルギー物質として個々のナッツを指定するのではなく、「ツリーナッツ」や「ナッツ類」といった分類で「包括的に指定」しているほどです。
ナッツアレルギーは、少量の摂取でも重篤な症状を発する場合があることでも知られています。
アレルギー患者の方、特に他のナッツにアレルギーを持つ方が初めてピリナッツを食べようとする場合には、事前に医師の診断を仰ぐことを強く推奨いたします。
素焼きピリナッツ
「素焼き」のナッツとは、塩や油を使わず、ナッツをそのまま焼いたものです。
どこで買える?(素焼きピリナッツ)
ピリナッツに関しては、ローカルのナッツ専門店等での扱いはあるものの、全国展開しているコンビニやスーパーでは現在は扱われていないと思われます。
なお、ネット通販では1年を通して取り扱われています。
キロ単位での販売の他、40gや100gといった試しやすいサイズでも販売されていますので、ぜひ新感覚のナッツの味わいと食感を堪能してみてください。
ピリナッツの加工品や料理
カルディで買える?(ロースト・蜂蜜ピリナッツ)
2020年の前半、「ハニー味のピリナッツ」がカルディさんで買えるとして話題になっていました。
ですが、筆者が確認したところ、残念ながら2020年10月現在は、カルディさんでの扱いは無いようです。
お店のナッツコーナーで見つからなかったので、店員さんにお聞きしたら端末で検索してくれたのですが、「現在カルディでは扱いの無い商品」とのことでした。
カルディさんは「珍しい輸入食品」をたくさん扱うお店として知られています。
多くの人が「珍しい」と感じるということは、それだけ新商品を次々と採用していて商品の入れ替わりも激しいということでしょうから、仕方ないことなのかもしれません。
その他のピリナッツ加工品・料理
ピリナッツは、現地フィリピンでも高価なナッツと認識されており、最近では海外からの旅行者の土産物としても人気が出てきています。
素焼きのもの、塩のみで味つけしたもの、ハニー味、キャラメル味(キャラメリゼ)といったバリエーションがあります。
他のナッツと同様にチョコレートやアイスクリーム等のスイーツに入れられるほか、その栄養価からエナジーバーにも入れられたり、中国や台湾では月餅に入れられたりもします。
また、料理のレシピとしては、チキンに挟み込んだり、細かく切って肉や魚にトッピングしたり、ココナッツライスに入れられたりする場合もあります。
ピリナッツ加工品、日本国内ではどこで買える?
ピリナッツ加工品を「日本国内ではどこで買えるか」についてですが、楽天やyahoo!ショッピングといった大手通販サイトでも数点の出品は確認できました。
そのうち「個人輸入扱いにならないもの」としては「JTB」が運営するモールで販売されている「ソルト&ペッパー」の味付けがされたものがあります。
また、「マウントマヨン プレミアム ピリナッツ」が、日本で販売開始されたことが「PR TIMES」に出ていました。(2020年10月)
これらの商品については、今のところamazonや楽天等での扱いはないようです。日本総代理店のマウントマヨンジャパン合同会社さんの公式オンラインストアで購入できます。
あとがき
最近ではスーパーフードのブームで世界の様々な食材が紹介されていますが、ピリナッツは単にその栄養価が注目されているだけではなく、とろけるような食感と上品な甘みで「味もとても美味しい」ため、ふとしたきっかけで日本でもブレイクするポテンシャルを秘めていると思います。
前述のとおり40gや100gといった小袋の商品がネット通販でも販売されていますので、是非試してみてください。また、身近にフィリピンに行かれる方がいたら、現地にしかないピリナッツの加工品をお土産にリクエストしてもいいかもしれません。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
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【参考文献・参考サイト】
・Philippine Statistics Authority, OpenSTAT
・PHILIPPINE BUREAU OF PRODUCT STANDARDS,2005,PHILIPPINE NATIONAL STANDARD (Pili nuts)
・USDA:Agricultural Resarch Service