腐敗と発酵は、いずれも微生物や酵素の働きによってタンパク質や炭水化物が分解していく現象。その違いは「人間にとって有用かどうか」だけだと言われています。
多くが偶然の産物によって生まれ、改良が加えられてきた発酵食品。納豆に塩辛、漬物、くさやと発酵食品大国の日本ですが、海外にも沢山の種類の珍しい発酵食品が存在しています。
このページでは、世界の発酵食品を国別に紹介していきます。
ヨーロッパの発酵食品
ドイツの発酵食品「ザワークラウト」
ドイツの発酵食品「ザワークラウト」は、千切りキャベツを乳酸菌発酵させたもの。さっぱりとした酸味とキャベツの食感が、ソーセージ等の肉料理の付け合わせに相性抜群。「ザワー (sauer)」は「酸っぱい」、「クラウト(kraut)」は「ハーブ」や「芽」を意味するドイツ語です。
ポルトガルの発酵食品「マッサ」
ポルトガルの発酵食品「マッサ」は、塩漬けパプリカを発酵させた万能調味料。その真っ赤な外見からタバスコのような激辛ホットソースをイメージするかもしれませんが、あくまで赤色色素の元はパプリカで、唐辛子の辛み成分であるカプサイシンを含みません。
発酵食品というとクセの強いものが多いですが、このマッサはまさに万能で、パプリカの旨味と塩加減が、肉料理にもパスタにも良く合います。
イタリアの発酵食品「アンチョビ」/「バルサミコ酢」
イタリアの発酵食品「アンチョビ」は、内臓を取り除いたカタクチイワシを塩漬けにして熟成発酵させ、オリーブオイルを加えたもの。カタクチイワシ科の小魚のことを英語でアンチョビ(anchovy)と呼びますが、日本では魚自体を指すことはあまりなく、発酵食品のアンチョビを指すことが多いと思います。
イタリアの発酵食品「バルサミコ酢」は、ブドウの濃縮果汁を酢酸発酵させた後、樽の中で長期間熟成させて作る暗褐色の果実酢。甘酢っぱく濃厚な味わいと芳醇な香りが、パスタやサラダ、更にはアイスやヨーグルトのトッピングにも合うと言われ、煮詰めてとろっとしたソースにして使われることもあります。筆者個人が最も相性が良いと思う料理はローストビーフです。
スウェーデンの発酵食品「シュールストレミング」
スウェーデンの発酵食品「シュールストレミング」は、世界一臭いとも評される塩漬けのニシンの缶詰。缶の中で発酵を続けるため、常温保存は厳禁。開缶時の取り扱いついても、多くの注意事項があり、少なくとも興味本位で気軽に買うものではないです。
イギリスの発酵食品「マーマイト」
イギリスの発酵食品「マーマイト」は、ビール醸造の副産物である酵母粕を主原料に、食塩や野菜エキスを加えた、濃褐色から黒に近い色の調味料。現地ではトーストに塗って食べるのがスタンダードだそうですが、苦手な人も多いとか。
筆者はプライベートではなく仕事の一環で一度だけ食べたことがあります。しょっぱさに加えて、苦味と独特の香りがあり、確かに賛否が分かれるのも納得の味でしたが、個人的には悪いものではありませんでした。とはいえリピートして個人的に買うところまで至ってはいませんが。もし次に食べるとしたら、トーストよりはクラッカーでいきたいかなあという印象。
オセアニアの発酵食品
オーストラリアの発酵食品「ベジマイト」
オーストラリアの発酵食品「ベジマイト」は、酵母粕を主原料に食塩や麦芽エキスを加えた調味料。オーストラリアにて、元々イギリスから輸入していた「マーマイト」が、第一次世界大戦の影響で途絶えたこと中に開発されたのが「ベジマイト」だそうで、両者の製法や成分は酷似しています。こちらは筆者は未経験ですが、食べ比べても面白いかもしれません。
アフリカの発酵食品
マダガスカルの発酵食品「バニラビーンズ」
マダガスカルの発酵食品「バニラビーンズ」は、バニラの種子鞘のこと。収穫直後は香りが無く、キュアリングと呼ばれる発酵と乾燥を繰り返す工程を経て、アイスクリーム等に使われるあの独特の香りを発するようになります。
世界中で原料の争奪戦が起き価格が暴騰しており、熱帯や亜熱帯に属する地域の各地で、金脈を探すかのように栽培方法の開発や発酵方法の研究が盛んにおこなわれています。
コートジボワールの発酵食品「カカオ豆」
コートジボワールの発酵食品「カカオ豆」は、カカオノキの果実を収穫して果皮を取り除き、一週間ほど発酵させた種子の部分のこと。チョコレートやココアの原料になります。
最近では、加工品の原料とするだけではなく、カカオ豆を焙煎してチップ化したカカオニブにも注目が集まってきました。加糖や精製をしていないため、素朴で自然なビターチョコレートといった感じです。
エチオピアの発酵食品「インジェラ」
エチオピアの発酵食品「インジェラ」は、テフというイネ科の穀物を製粉し水に溶いて乳酸菌発酵させたもので、エチオピアでは主食として食べられています。白米やパンのようなイネ科の穀物から作られる主食同様に甘みがありますが、発酵の進み具合により酸味の程度は変わります。
南アフリカ共和国の発酵食品「ルイボスティー」
南アフリカ共和国の発酵食品「ルイボスティー」は、南アフリカ共和国に自生するルイボスというマメ科の植物の葉を発酵させて作られるお茶。日本茶がグリーンティーと呼ばれるように、発酵させないものはグリーンルイボスティーと呼ばれ区別されます。
麦茶と同様にカフェインを含まないお茶で、日本でもカフェやペットボトル飲料として見かけることが増えてきました。
アジアの発酵食品
ナタデココ
フィリピンの発酵食品「ナタデココ」は、ココナッツウォーターにナタ菌(酢酸菌の一種)を加え発酵させたときに液体の表面に形成される乳白色で半透明な上澄みを、ダイス状にカットしたもの。
強い弾力を持った歯ごたえは他の食材では代わりの効かないナタデココ独特のもので、日本では90年代に爆発的にヒットし、その後もシロップ漬けの缶詰等で流通するほか、ヨーグルトやゼリー、飲料等に入れられ根強い人気を誇っています。
インドネシアの発酵食品「テンペ」/「コピ・ルアク」
インドネシアの発酵食品「テンペ」は、茹でた大豆にテンペ菌(クモノスカビの一種)を撒いて発酵させたもの。インドネシアの納豆と呼ばれることもありますが、納豆のような粘り気や臭いは控えめで、クセが無く食べやすい食材です。大量生産に特別な技術が必要なわけでもないため、欧米や日本のスーパーの一部でも取り扱いがされています。また、テンペ菌自体も販売されています。
インドネシアの発酵食品「コピ・ルアク」は、コーヒーノキの果実を食べたジャコウネコが排泄する糞の中に、未消化のまま残った種子の部分(コーヒー豆)のこと。
ジャコウネコの腸内発酵による独特の風味を持ったこのコーヒーは、世界一高価なコーヒーとも言われ、糞から採取するコーヒーというインパクトや物珍しさもあってか、日本のクイズ番組や雑学系の番組でも度々取り上げられています。
タイの発酵食品「ナンプラー」
タイの発酵食品「ナンプラー」は、カタクチイワシ科の小魚等を主原料とし、塩漬け発酵させた際に生じる液体を調味料としたもの。タイ料理には必要不可欠な調味料で、日本では輸入食材店のほか、一部のスーパーでも取り扱いがあります。
一口にナンプラーと言っても等級やメーカーによって、(良くも悪くも)臭みや味にかなり差があり、合う合わないがあると思いますので、余裕があれば複数の価格帯やメーカーを試すことをおすすめします。
ベトナムの発酵食品「ヌクマム」
ベトナムの発酵食品「ヌクマム」は、魚介類を塩漬け発酵させた際に生じる液体を調味料としたもので、ナンプラーと同様のものです。日本ではナンプラーの方が知名度があると思いますが、その歴史はヌクマムの方が長いそうです。
なお、魚醤は東南アジア独自の文化ではなく、日本にも秋田の「しょっつる(ハタハタから作る魚醤)」、北陸の「いしり(イワシやイカから作る魚醤)」等があります。
中国・台湾の発酵食品「臭豆腐」/「腐乳」
中国・台湾の発酵食品「臭豆腐」は、酪酸菌や納豆菌で長期発酵させた植物性の発酵汁に豆腐を漬け込んただもの。臭豆腐の名が示す通り刺激的な臭いで、インドールという大便の臭気成分の一つを含みます。
揚げたり煮たりすると多少は臭いが抑えられるため、ビギナー向けの食べ方と言えるかと思います。日本でも入手は可能ですが、臭豆腐による異臭騒ぎで電車が止まったこともあるようなので、取扱には充分注意してください。
中国・台湾の発酵食品「腐乳」は、塩水の中に豆腐と麹を漬け込んで発酵させたもので、豆腐乳とも呼ばれます。主に調味料として用いられ、日本でも瓶詰めの腐乳が流通しています。臭豆腐と混同しがちですが、こちらは無臭ではないですが、臭豆腐ほどの強烈な臭気はしません。
韓国の発酵食品「キムチ」/「ホンオフェ」
韓国の発酵食品「キムチ」は、白菜などの野菜に唐辛子や塩、塩辛、ニンニク等を加えて乳酸菌発酵させた漬物。日本でもポピュラーな漬物の一つになっており、白菜のキムチ(ペチュキムチ)のほか、きゅうりのキムチ(オイキムチ)、大根のキムチ(カクテキ)なども流通しています。
もし酸っぱさを第一の基準にしてキムチを選ぶ場合は、メーカーや商品選びだけではなく、賞味期限も意識したいところ。陳列中も容器の中で発酵が進み、賞味期限の間近のものは酸味が強くなるためです。
韓国の発酵食品「ホンオフェ」は、ガンギエイを壺に入れて放置した発酵食品。強烈な刺激臭(アンモニア臭)を発することで有名で、前述したシュールストレミングに匹敵する世界で2番目に臭い食品と言われています。
アメリカ大陸の発酵食品
カナダの発酵食品「キビヤック」
カナダの発酵食品「キビヤック」は、アザラシの腹を裂いて中に海鳥を大量に詰め込み、地面に長期間埋めて発酵させるもの。食べるのはアザラシではなく海鳥のほうで、世界的にも珍しい鳥類の発酵食品です。
その食べ方もなかなか衝撃的で、発酵しドロドロになった内臓を鳥の肛門から直接すするというもの。カナダやアラスカ、グリーンランドなどの高緯度地方においては、貴重なビタミン源になっているそうです。
ちなみに、漫画「もやしもん」は、肉眼で菌が見える能力を持った少年が大学の農学部に入学したところから始まる物語ですが、第1話でいきなりキビヤックを食べる人物が登場します。日本で食べる機会はまず無いと思いますので、雰囲気だけでも味わってみては。