ボツリヌス菌食中毒の特徴と事例一覧

和名ボツリヌス菌
学名Clostridium botulinum
特徴●熱に強い(芽胞をつくる)。
●空気が嫌い。
●強い毒素を産出する。
●土壌や水に分布。
●毒素は熱に比較的弱い。
※蛋白分解能により「蛋白分解菌」と「蛋白非分解菌」に分類される。
・蛋白分解菌:増殖温度:10~48℃(至適温度:37℃)
・非蛋白分解菌:増殖温度3.3~45℃(至適温度:30℃)
潜伏期間5~72時間(一般には8~36時間)。
乳児ボツリヌス症の潜伏期間は3~30日間と推定。
症状吐き気・嘔吐、消化器系症状の後に神経症状。
(嚥下困難、言語障害、呼吸困難、視力低下など)
汚染源魚・哺乳動物の腸管内
土壌、海や河川等の泥中
原因食品●缶詰、いずしなど比較的酸素の少ない食品が原因となる。
※外国ではハム、ソーセージ等
※日本ではいずし、辛子レンコン、あずきばっとうの例あり。
※乳児ではハチミツが原因となる乳児ボツリヌス症がある。
発症菌量10万個以上
予防の
ポイント
●乳児にハチミツや、ハチミツ入りの食品は絶対に与えない。
●原材料の洗浄を十分に行う。
●食べる直前に焼くか煮るかして加熱する(毒素は熱に比較的弱い)。
※毒素の無毒化には、80℃で30分間、または100℃で10分間以上の加熱が必要。
※菌(芽胞)を死滅させるためには120℃、4分間以上の加圧加熱殺菌が必要。
●温度管理により食品中での増殖を抑制する。
※容器包装食品の表示をよく見て保存方法(常温保存可能かどうか)を確認する。
●容器包装食品で、異常膨張や異臭がある場合には食べない。
<参考文献>
食品安全委員会, ファクトシート《最終更新日:平成30年2月13日》
・一般社団法人東京都食品衛生協会, 食品衛生責任者教本‐東京都福祉保健局監修‐ 第37版
・公益社団法人神奈川県食品衛生協会, 食品衛生責任者テキスト 第8版
一色賢司 (監修)/ 一般社団法人食品安全検定協会 (編集), 食品安全検定テキスト 中級 第2版

「食品安全検定 中級」は、HACCPや食中毒の事例問題等が出題される試験です。
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ボツリヌス菌食中毒の発生状況

年次推移(発生件数/患者数/死者数)

年\項目件数(件)患者数(人)死者数(人)
2010年11
2011年
2012年12
2013年
2014年
2015年
2016年
2017年111
2018年
2019年
出典:『食中毒統計資料 |厚生労働省』のデータを当サイトで加工編集

ボツリヌス菌は発生件数こそ少ないものの、最強クラスの毒素を作り致死率が高いため、決して軽視することはできない重大な食中毒菌です。

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ボツリヌス菌食中毒の事例

以下に掲載する事例は、『食中毒統計資料 |厚生労働省』で公表されている食中毒事例より、「病因物質がボツリヌス菌の事例」を抜粋して掲載したものです。

食中毒事例(2017年)

2017年のボツリヌス菌食中毒について
  • 2017年は、「ハチミツ」を原因食品とする乳児ボツリヌス症により、生後5か月の男児が亡くなられています。
発生月日発生場所原因施設摂食
者数
患者
死者
原因食品
02月19日東京都家庭111蜂蜜

乳児に「ハチミツ」や、「ハチミツ入りのパンやお菓子などを与えることは厳禁とされています。

それは、次のような理由によるものです。

  • ミツバチが集める花の蜜に土壌中のボツリヌス菌が混じ ることがあります。
  • 糖分が高いハチミツの中でボツリヌス菌は増えませんが、死ぬこともなく、「芽胞」という固い殻に守られ休眠しています。
  • 1歳未満の赤ちゃんは、ボツリヌス菌(芽胞)をやっつける腸内細菌の準備が整っていません。
  • そのため、お腹の中で芽を出した菌が増殖し、毒素を出すことがあります。

「ハチミツ入りのパンやお菓子など」も乳児に与えるのを避けるべきです。

水分の多い食品は加熱調理しても100℃以上にはなりませんが、芽胞に守られたボツリヌス菌は100℃では死滅せず、食品の中で生き残っている場合があるためです。

ボツリヌス菌を殺菌するには、「加圧加熱殺菌(120℃、4分)」が必要になります。

なお、「ハチミツ」や「ハチミツ入り食品」を乳児に与えるべきでない旨について、食品表示法上の表示義務はありませんが、食品表示基準Q&Aや、厚生労働省や東京都の各種通知においては、「1歳未満の乳児には与えないでください。」などの注意喚起をすることが推奨されています。

食中毒事例(2012年)

発生月日発生場所原因施設摂食者数患者数死者数原因食品
03月24日鳥取県不明220あずきばっとう
2016年のボツリヌス菌食中毒について
  • 2012年は、「あずきばっとう」を原因食品とする、ボツリヌス菌食中毒が報告されています。

「あずきばっとう」は、甘さ控えめの小豆汁にうどんが入った郷土料理です。

当該食品は、あずき餡とうどんを混ぜ、「真空包装し1時間煮沸」して製造されたもので、要冷蔵(5℃以下)の表示で流通していた商品です。

当該メーカーでは、他に同様の食中毒の報告はなかったものの、万が一の被害拡大を未然に防ぐため、自主回収を実施されています。


一般に、「真空包装」する、またはエージレス等の脱酸素剤を用いて「脱酸素状態」にすることは食中毒菌対策に有効です。食中毒菌の多くが、増殖するのに酸素が必要な菌(好気性菌)だからです。

ただし、ボツリヌス菌は酸素が無いところで増殖する「嫌気性菌」です。そのため、食中毒菌対策のために講じたはずの真空包装によって、奇しくも最強クラスの毒素を発生させるボツリヌス菌食中毒のリスクを高める結果になってしまう場合があるのです。

ボツリヌス菌の増殖には水分も必要なため、水分の少ない食品(水分活性の低い食品)はともかく、特に水分を多く含む食品の食中毒対策においては、「加圧加熱殺菌(120℃、4分)」と真空包装を組み合わせる等の対応が必要になります。

水分を多く含む食品の真空包装や脱酸素包装を初めて実施しようとする場合には、事前に細菌検査機関や脱酸素剤メーカー等の専門家に相談するのが良いかもしれません。

食中毒事例(2010年)

発生月日発生場所原因施設摂食者数患者数死者数原因食品
12月22日国内不明不明1100

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