「5S」とは?
「5S」を一言で表すなら、
①「整理」「整頓」「清掃」の実践を、
②「習慣づけ(しつけ)」ることによって、
③「清潔」な状態を保つこと。
です。
整理(Seiri)・整頓(Seiton)・清掃(Seisou)・清潔(Seiketsu)・習慣づけ(Shukanzuke)のローマ字の頭文字をとって、「5S」と呼ばれています。
「5S」は、業種を問わず工場全般に通じる考え方で、食品工場に限ったものではありません。
「5S活動」は、もともと「効率」を目的としたもので、民間や経済産業省等が推し進めてきました。
物が煩雑に溢れて汚れた工場よりも、物が整理整頓され綺麗に掃除された工場のほうが、製造効率が高いのはイメージできるのではないでしょうか。
食品工場における、「5S」は、もちろん「効率」の向上にも寄与しますが、それよりも「5S」の一つである「清潔」そのものを目的としています。
食品工場が目的とすべき「清潔」とは、見た目だけの清潔ではなく、細菌やウイルス等の「微生物レベルでの清潔」です。
そこで、微生物レベルでの清潔を実現するために、食品工場においては、「洗浄(Senjou)」と「殺菌(Sakkin)」の2つが加えた「7S」とする場合があります。
「7S」とは?
「7S」を一言で表すなら、
①「整理」「整頓」「清掃」「洗浄」「殺菌」の実践を、
②「習慣づけ(しつけ)」ることによって、
③「清潔」な状態を保つこと。
です。
食品衛生「7S」は、「NPO法人食品安全ネットワーク」が提唱している活動です。
7S | 定義 |
---|---|
整理 | 要る物と要らない物とを区別し、要らない物を処分すること。 |
整頓 | 要る物の置く場所、置き方、置く量を決めて、識別すること。 |
清掃 | ゴミや埃などの異物を取り除き、きれいに掃除すること。 |
洗浄 | 水・湯、洗剤などを用いて、機械・設備などの汚れを洗い清めること。 |
殺菌 | 微生物を死滅・減少・除去させたり、増殖させないようにすること。 |
躾 | 整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌におけるマニュアルや手順書、約束事、ルールを守ること。 |
清潔 | 「整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌」が「躾」で維持し、発展している製造環境。 |
7Sのそれぞれの項目は同格では無く、あくまで目的は「清潔」であって、「整理」、「整頓」、「清掃」、「洗浄」、「殺菌」は手段という扱いです。
7S | 属性 |
---|---|
整理 | 手段 |
整頓 | 手段 |
清掃 | 手段 |
洗浄 | 手段 |
殺菌 | 手段 |
躾 | 維持管理 |
清潔 | 目的 |
なお、先に述べた「習慣づけ」は、表にもあるとおり「躾(しつけ/Shitsuke)」とされることが多いです。
言葉の問題ですが、筆者個人としては「しつけ」ではなく「習慣づけ」を推奨します。
「しつけ」というのは上から下への意味合いが強い言葉であり、行為です。まず、これが現場の反感を買ってしまう恐れがあります。
また、「7S」は具体的な活動であると同時に「意識改革」の意味合いも強く、現場の作業員が自らの意識で実践していくことに意義があります。
そして、「しつけ以外の6S」が「モノや場所」を目的語に取るのに対して、「しつける(しつけする)」は「人」を目的語とする動詞です。これが、「7Sを徹底しよう」と現場への浸透を図る段階で、ある種の障害となります。
- 「整理しよう」
- 「整頓しよう」
- 「清掃しよう」
- 「洗浄しよう」
- 「殺菌しよう」
- 「清潔にしよう」
これらは、7Sを計画する「会議室」でも、それを実践する「現場」での声掛けでも使える表現です。
ただし、
- 「しつけしよう」
これだけは、「会議室」だけで使える、「現場」で使えない表現なんです。
現場の個々の作業者が「しつけよう(しつけしよう)」とするのはおかしいですし、かといって、「しつけられよう(しつけされよう)」などと現場で復唱してもらうことができるでしょうか。仮に復唱させたとして、果たしてそれがプラスに働くでしょうか。
これが「習慣づけよう(習慣づけしよう)」であれば、問題にはなりません。
もし「しつけ」の表現にこだわるのであれば、強引ですが「自分をしつけしよう」とでもするべきかと思います。
この「しつけ」の話は、必ずしも7Sの本質に関わるものではありませんが、衛生管理のコンサルタントや監視員等ではなく、メーカーの品質担当の一人として肌で感じた、すごく大切なことだと考えています。
整頓
7S | NPO法人食品安全ネットワークによる定義 |
---|---|
整理 | 要る物と要らない物とを区別し、要らない物を処分すること。 |
整理を怠ると、次のような事態になるリスクが発生します。
<不要物が機械・設備の場合>
- 作業スペースが狭くなり、製造効率が低下する。
- 日頃の清掃や洗浄の邪魔になる。
- ゴミやほこりが溜まり不衛生、昆虫の棲家になることも。
不要物が器具・道具等の場合はもっと深刻です。
不要物なのですから、もちろん製造現場から無くなっても問題はありません。
ですが、あくまでそれは「無くそうと考えて意図的に撤去」した場合の話です。
では、いつのまにか無くなっていた場合はどうなるでしょうか。
もしかしたら、製品に混入してしまっている可能性がありますね。
そうなると、その不要物はたちまち「異物」となり、もともと不要だったはずのものを、わざわざ手間をかけて探さなくてはならなくなります。
そして、見つからなければ、あるいは製品の一部から見つかったとしたら、製品をロットごと廃棄せざるを得ない事態にも発展しかねません。
もっと言えば、もともと不要なものですので、無くしたこと自体に気づかないまま、「異物混入」を引き起こしてしまうかもしれないのです。
このように、不要物を現場に置いておく、あるいは持ち込むことは、百害あって一利もありません。
さて、不要物を撤去する「整理」の重要性を認識しても、次の問題があります。
誰が見ても明らかに不要なものは、ただ捨てれば良いので問題になりません。
問題となるのは、「もしかしたら使うかもしれない」レベルの物です。
- 現場の人は普段から「要らない、邪魔だ」と思っていても処分する権限が無い。
- 経営層は、「もったいない」「いつか使えるかも」と思いがち。
このギャップで、いつのまにか物が増えていきます。
取得原価の高いものであったりすると、なおさらです。
このように要不要がはっきりしない物については、最低でも「製造現場からは撤去する」ことが肝要になります。
一時保管場所を設け、かつ「いつまで保管するか」をあらかじめ決めておくことが望ましいです。
整理を怠って物で溢れている製造現場では、①物探しの時間が発生して作業効率が落ち、②清掃や保守点検の手間が増え、③衛生上のリスクや異物混入リスクも上がります。
そういった余計な時間やリスクが積もり積もると、「使うかもしれない物」の取得原価以上のコストが、いつのまにか膨らんでいるかもしれません。
整頓
7S | NPO法人食品安全ネットワークによる定義 |
---|---|
整頓 | 要る物の置く場所、置き方、置く量を決めて、識別すること。 |
「整頓」を怠ると、必要な物を探すのに苦労するばかりか、いつのまにか物が無くなってしまう恐れもあります。
つまり、「整理」の章で述べたリスクと同様の異物混入リスクがあります。
また、使用した器具をどこに戻すかのルールが確立されていないと、交差汚染も発生しやすくなります。
例えば、カンピロバクター菌による食中毒は、主に加熱不足の鶏肉を摂取することで発生するものです。生の鶏肉を掴んだトングを、加熱後の肉を置く作業台の上に一時置きしてしまうと、加熱殺菌の効果がなくなってしまいますね。
菌類等の微生物汚染と同様に、アレルゲンのコンタミネーションも起こりやすくなってしまいます。
反面、「整頓」の行き届いた工場では、交差汚染のリスクは低減しますし、また、必要なものがどこにあるかすぐに分かるため作業効率も上がります。
清掃
7S | NPO法人食品安全ネットワークによる定義 |
---|---|
清掃 | ゴミや埃などの異物を取り除き、きれいに掃除すること。 |
広義では、後述する「洗浄」や「殺菌」も「清掃」に含まれますが、ここでは主に洗浄剤や殺菌剤を使わない、ドライでの掃除を「清掃」として述べます。
清掃ではチリやホコリを除去することはもちろん、食品残渣(しょくひんざんさ)を残さないように取り除くことが特に重要です。
食品残渣が残っていると、昆虫やネズミを誘引したり、微生物が増殖したりと、食品工場にとって重大なリスクになりえるからです。
清掃は、自宅での掃除のほか、特に日本人の場合は公立の小中学校で経験した人も多く、誰でもある程度はできてしまいます。
だからこそ、ルール化が後回しになって、個人差が発生しやすくなりがちでもあります。
清掃の手順をつくって標準化し、頻度を決め、実施記録もつけることでルール化して、確実に清掃を実施することが重要です。
大型の機材や備品の下は、ゴミやホコリが溜まりやすくなります。導入の段階で、足をかさ上げして、モップやホウキが入るくらいの隙間を確保することも検討すると良いです。キャスターを付けることも有効です。
洗浄
7S | NPO法人食品安全ネットワークによる定義 |
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洗浄 | 水・湯、洗剤などを用いて、機械・設備などの汚れを洗い清めること。 |
「洗浄」は、水や洗浄剤を使用して環境の汚れを除去することですが、広義では、作業者の手についた汚れを落とす「手洗い」も「洗浄」に含む場合があります。
「手洗い」と言えば、コロナ禍でその効果が注目され、アルコール消毒の前の「手洗い」によって、汚れとともに多くの菌も除去できることが、各所で大きく取り上げられました。
それは工場においても同様で、洗浄によって大部分の菌は除去できます。
逆に、清掃や洗浄が不十分で、有機物が残っている状態で殺菌をおこなっても、殺菌効果は限定的になってしまいます。
洗浄は、基本的には作業のあとすぐのタイミングでおこないます。
ご家庭でも、直後であれば水だけで簡単に落とせる汚れが、1日放置すると皿や鍋にこびりついてしまい、落とすのに苦労した経験が一度はあるのではないでしょうか。
洗浄のタイミングは作業後すぐが望ましいものの、洗浄の目的は「作業の後始末」では無く、「次の作業を汚れの無い状態でおこなうための前準備」です。
したがって、作業前に改めて洗浄をおこなうべき場合もあります。
洗浄の効果は、まず、次のような水や熱水による物理的な効果があります。
- スポンジやモップを用いた洗浄
- 水圧による高圧洗浄
- 熱水による洗浄
また、洗浄には、洗浄剤による化学的な効果があります。
洗浄剤は中性洗剤、アルカリ性洗剤、酸性洗剤に大別され、汚れの種類によって使い分けます。
- 中性洗剤:主に日常的な洗浄に。
- アルカリ性洗剤:油汚れや蛋白質など酸性の汚れに。
- 酸性洗剤:カルキやカルシウムなどアルカリ性の汚れに。
多くの洗浄剤メーカーや清掃業者(抗議の清掃で、洗浄を含みます)にはノウハウがありますので、洗浄剤や洗浄方法について相談するのも良いと思います。業者によっては、工場で扱う食品の種類と、設備・機器の材質から、最適な洗浄剤や洗浄方法を提示してくれます。
また、日常的な「洗浄」は自社でおこないつつ、定期的に専門業者に依頼して徹底して汚れを落としてもらうのも有効です。
殺菌
7S | NPO法人食品安全ネットワークによる定義 |
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殺菌 | 微生物を死滅・減少・除去させたり、増殖させないようにすること。 |
微生物汚染の対策を考える場合、必ずしも狭義の「殺菌」にこだわらず、微生物危害防止の3原則①「つけない」②「ふやさない」③「やっつける」を、トータルで考えるべきです。
また、ここでの「殺菌」の対象は、菌類、細菌類、ウイルスまでを含む、微生物全般を指します。
「やっつける」意味での殺菌について言うと、先にも述べましたが、まず清掃や洗浄を充分に実施してからおこなうことが重要です。微生物の多くは、清掃・洗浄によって物理的に洗い流すことができ、化学的に除去することができるからです。
また、殺菌に関しては、「意識」もさることながら、菌やウイルスの特徴や殺菌方法について、例えば次のような「知識」も必要になります。
- 大規模な食中毒を引き起こすノロウイルスには、一般的なアルコール消毒は効果がありません。
- 人の皮膚や傷口に存在する黄色ブドウ球菌が食中毒の原因となることがあります。
このような菌の性質や、感染経路、予防法や症状といった知識は、どのように身に付ければ良いでしょうか。
一つには、もちろん、菌や微生物の専門書籍で身に着けることはできます。
ただ、自主的に机に向かうのが苦手な方は、例えば、「食品衛生責任者養成講習会」などは役に立ちます。
食品衛生責任者は、飲食店等では各店に必須の資格です。
学生アルバイトでも1日で取れるとか、6時間で取れる役に立たない資格だとか、資格ランキングのようなサイトでは揶揄され扱き下ろされることも多いように思います。
ですが、内容自体は、6時間真面目に聞けば、食品安全の基礎が習得できて役に立つものです。
あるいは、実力を測るテストがあるとモチベーションが上がる方については、「食品安全検定」という検定は良いかもしれません。
歴史の浅い検定で知名度が低いため、現状は昇進や転職に役立つ資格とは言い難く、これまた資格ランキングのようなサイトでは扱き下ろされがちです。
ただ、実際に筆者が中級を受験した感想としては、少なくとも内容としては単なる資格ビジネスのような無意味なものではありませんでした。
※筆者が受けたのは中級ですので、初級の内容は把握していません。
出題形式としては一般的な選択問題が主ですが、食中毒を題材とした事例問題なんかも出題されます。
食中毒前後の現場の状況や患者の症状などが問題文に示され、食中毒の原因を推測する、ちょっとした推理問題のようなものです。
学習を通して、食中毒菌やウイルスの汚染経路や原因食品、増殖条件や死滅条件などを理解することができます。
関連ページ:「食品安全検定・中級」の合格率や評価、メリット
関連ページ:【合格者が語る】食品安全検定・中級の勉強方法
洗浄や殺菌の効果の検証には、残存微生物を検出する拭き取り検査や、清浄度を測る「ルミテスター」が使われたりします。
「ルミテスター」は、キッコーマングループが開発した発光光度計で、ATPという汚れの指標が10秒ほどで得られるため、食品工場や飲食店など、多くの現場で使われています。
習慣づけ
7S | NPO法人食品安全ネットワークによる定義 |
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躾 | 整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌におけるマニュアルや手順書、約束事、ルールを守ること。 |
※冒頭で述べていますが、7Sにおける「躾」に関して、筆者は「習慣づけ」の用語に置き換えることを推奨します。
先に述べた「整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌」の各ルールは、そのルールが正しく守られ、習慣づけられてこそ意味があります。
- ①ルールを正しく周知すること
- ②ルール自体が現実的で分かりやすいこと
- ③ルールを守る仕組みがあること
①に関して、まず新入社員や新規配属者に対する導入教育訓練は漏れなく実施される必要があります。
ただし、人間は忘れてしまう生き物です。そのため、導入教育訓練のみならず、定期的な継続教育訓練が必要になります。また、特に重要な項目については朝礼などでの日々の声だし確認等も有効でしょう。
②に関して、衛生管理に妥協はいけませんが、かといって現実的でないルールでもいけません。
衛生管理の計画策定においては、時に重箱の隅をつつくような指摘が積み重なり、ルールが肥大化することがあります。
これはHACCPにも通じる考え方ですが、衛生リスクを考える場合、「発生確率」と「被害の深刻さ」を掛け合わせ、「リスクの重要性」を算定することが重要になります。
結果、重要性の低い要因についてはルールを設けないか、対処する頻度を低くします。守るべきルールが多すぎて、本当に重要なルールに手が回らないようでは困るからです。
また、上役や外部提出用の資料はどうしても難解な表現を使いがちになると思います。現場への落とし込みの段階では、簡単な言葉に置き換えたり、表やイラストを追加するなども有効です。
※表現方法の変更の話であって、決して内容自体を変えて上役用のルールと現場用のルールの2本立てで運用するという意味ではありません。
③に関しては、ルールを破った場合の罰則を設けるのか、ルール遵守の重要性を説明したりして意識改革をおこなうか、どちらを重視するのかは社風にもよるとは思います。
いずれにしても、「ルールが正しく守られているか」のモニタリングは必須と言えると考えられます
清潔
7S | NPO法人食品安全ネットワークによる定義 |
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清潔 | 「整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌」が「躾」で維持し、発展している製造環境。 |
清潔は、「整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌」が計画的に実施され、習慣づけられている状態です。
7Sには順序があり、繋がっているものです。
- 整理をせずに不要物で溢れた状態で整頓しても意味がありません。
- 整頓されていない環境で清掃をするのは大変です。
- 清掃・洗浄が不十分では、殺菌の効果が発揮しづらくなります。
- 「整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌」は1回やって終わりというものではないので、習慣づけて継続的に実施し、清潔な状態を維持することが肝要になります。
また、一般的衛生管理プログラムやHACCPが「ルール」であり具体的な「手順や原則」であるとしたら、「7S」は具体的な活動であると同時に「意識改革」の意味合いも強く、それらは相互に補完するものになります。
HACCPによる衛生管理が2021年6月1日に義務化されましたが、まず7Sや一般衛生管理プログラムを現場に浸透させてからHACCPシステムを構築すると、せっかく決めたルールや管理方法が形骸化してしまうリスクは低減すると思います。